甘い毒針
「せんせ、おはよう」
突然の声に驚いて肩を上げながら後ろを振り向くと自分のクラスの生徒、坂田銀時くんだった
「せんせー、驚きすぎ〜」
「う…ボーッとしてたんだから仕方無いじゃない。…おはよう」
別にボーッとしてたから驚いたわけじゃ無い…
何ていうか…坂田くんって苦手なんだよね
別に、悪い生徒ではないし寧ろ教師生徒老若男女問わず人気がある優しい子なんだけど…
「貸して」
「え、あっ…」
ヒョイと坂田くんは私が持っていたプリントの山とファイルに今日の日誌なんかを取り上げる
「さ、坂田くん、悪いわ。」
「いーの、気にすんなって」
それに先生ドジだから落としたら大変だしな、とけらけら笑う坂田くんに「一言余計よ」とバシッと一発背中を叩く
坂田くんは「痛っ」と声を漏らし冗談交じりで私に頭を下げた
「嘘だから。女に重そうな物持たせたまま見て見ぬフリなんかできねーじゃん」
ああ、やっぱり苦手だ
別に重くなんか無いのに
だからそんな優しさをされると…勘違い、したくなる
でもそれは勘違いに過ぎない
だって、知ってる
彼は誰にでも優しい。女の子の扱いも手慣れてる
私は彼の中のただの女教師だ
特別なんかじゃない
分かりきったことなのに、ズキンと痛むこの気持ちはきっと気のせい
「せんせ?どうした?」
「あ、ううんっ!何でもないっ!…あ、教室…」
もう着いちゃったんだ
考え事をしてるとそんなことにも気づかないんだなあ、なんて思いながら教室に入る
「先生、おはよー」「銀時くんおはよー!」なんて声が教室のあちこちから上がる
坂田くんは私の荷物を教卓に置くとみんなの輪の中に溶け込んでいった
やっぱり、私はただの教師だなあなんて現実を実感する
「銀時くんはあ、どんな人が好き?ていうか、好きな人いる?」
坂田くんのファンらしき女の子達の質問に不意に心臓が音をあげた
「あー…そうさねェ…まあ、いるけど」
「えー!?誰々!?同じクラスのミツバさん?隣のクラスのさっちゃん?一つ下の神楽ちゃん?それとも一つ上の月詠さん?それともあたしらの中にいる?」
「なんでその面子なんだよ。そしてお前らの中にはいない」
「特に仲いいじゃない!ていうか酷っ」
「馬鹿言え。ミツバは彼氏いるし、猿飛はストーカーだし、神楽は…妹、みたいな?月詠は友達、や、親友か?ま、つまりそいつらでも無ーってこった」
にや、と笑った坂田くんと目が合い不覚にもドキッと心臓が動き出す
なんか見透かされてるみたいだ
何事もなかったように平静を装う
けど絶対今、坂田くん私見てるよ
視線感じまくり、刺さりまくりだもの!
この場から逃げたい!!のに何か動けないッ!
意味不明な脳内パニックを起こしていると「志村、」と名前を呼ばれる
声のする方へ振り向くと隣のクラスの土方先生だった
「土方先生。どうかしましたか?」
「このプリント、主任が渡し忘れてたらしいから」
「わざわざありがとうございます」
「後この前のことなんだが…」
「…ああ、」
「なァに話してんのセンセ方?」
肩に腕をかけられ「!」と目を見開く
「坂田…重い、腕退けろ」
「土方センセー恐ーい」
屈託ない笑みをしながら私と土方先生の肩から腕を退ける
坂田くんは今尚笑みを返しているが目が笑っていなかった
まるで何かイライラして怒っているようだ
「坂田、お前のが恐ェよ」
「そっスかー?」
「…ま、いいや。志村、黙っといてくれよ?約束したよな?」
「はい、ハーゲン10ダース」
「…1ダースじゃなかったか?」
「え?100?」
「10ダース、献上します。…っとヤベ、HR始まるから行くわ」
そう言って土方さんは自分のクラスに戻っていった
一方の坂田くんはしかめっ面状態
どうすればいいのか…
「坂田、くん?」
「んだよ…約束って」
いつもの陽気な声と違う、低くて凄んだような声
私がビクッと肩を強ばらせたのを見てか坂田くんは我に返ったようで小さな舌打ちをした
「…俺には関係無ェ、な」
何だろう
何か、言わなきゃいけない気がする
このままはきっと駄目だ
自分に背を向け、みんなの輪に戻る坂田くんを呼び止める
「約束は、坂田くんが思ってるようなことじゃないっ!」
坂田くんはピク、と反応して振り返った
「…ホントかよ?」
「本当!」
「…ふうん?」
ん?
坂田くんの笑みが、黒い
背中からゾクゾク来るような、そんな黒さ
「坂田、くん…?」
苦笑いで固まった顔を向けると坂田くんの黒い笑みは更に深くなる
何だろう、周りが氷で囲まれたみたいに冷たくて寒い
「じゃあ後でその約束の内容、教えてね?俺の機嫌損ねたら…覚悟はしといてほしいなァ?」
「!?」
ヒイッと顔をひきつらせる私を見て坂田くんは黒い笑みをやめ、優しく微笑んだ
「大丈夫、先生大好きだから優しくするからね」
甘い毒針
な、坂田くん!?冗談にも程が…
(今のは告白みたいなんだけど!?)
先生、あんまり鈍いと俺もいい加減手を出すよ?
(ここまで言って流されるのはごめんだからな!)
・高校パロで女の子扱いになれててガンガン攻める余裕たっぷり(でも土方先生に志村先生をとられるんじゃないかと焦って余裕無い)銀時くんと、たじたじな恋愛初心者の志村先生。ハッピーエンド
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